プロフィールにも載せてもらっていますが、今回は生まれて初めて自分で作った毛針で魚を釣ったお話です。
70年代半ば、ルアー釣りがなんとなく流行り出していた頃、当時中学生だった僕は、親戚のお兄ちゃんから大滝製作所のダイヤモンドマイクロ7とノーブランドのウルトラライトスピニングロッドを譲って貰って、友達と週末になると釣りに出かけていた。なんとなく魚がいそうな場所を見つけては、キャストを繰り返したが、何度かスピナーを追いかけてくる魚影が見えるだけで、いつも魚は一匹も釣れなかった。
そうこうするうちに、今度はお兄ちゃん達がやっているフライフィッシングという釣り方に興味が移っていった。フライフィッシングは難しいからまだお前には無理だと言われたが、そんなことを言われると余計にやりたくなった。ルアーと違ってキャスティングが命だと教えられた。それでもしつこく頼み込んで、何度かキャスティングを教えて貰っているうちに、やっぱりフライがしたくなった。またまた、ブローニングのグラスロッドとハーディーのマーキス#5を譲って貰って、近くの広場でキャスティング練習をした。驚かせたかったので、フライを始めたことは友達には内緒にしていた。そのうちなんとなく投げれるようになったので、そろそろ思い切って川に行って魚を釣ろうと決心した。
こうなったら毛針も自分で巻いてやろうと、たまたま学校の帰りに道端で拾った鶏の羽根を普通の餌釣りの針に適当にグルグルと巻き付けた。最後に羽根をどうやって針に固定していいのかわからなかったので(当然、スレッドの存在など知る由もない)アロンアルファを適当に垂らして留めることにした。すると、みるみるうちにアロンアルファが毛管現象で羽根に浸透していって、ハックルがまるでパンクロッカーの頭のようになってしまった。触るとツンツンして痛かった。こんなんじゃ釣れないだろうなと思ったけど、フライを知らない友達を驚かすには十分だった。
早速、週末に友達を誘い、宇治川に出かけた。初めて見るフライロッドから目が離れず、やりたそうにしている友達に、フライはキャスティングが命だから、練習していないお前にはまだ無理だと偉そうに伝えた。バックキャストが十分に取れる場所を確保して、自作のパンクヘッドフライを結んで、練習していたフォームでさっそうと川面に向かってキャストしている僕の姿を見て友達は感動していた。そして、なん投目かした時にドラマは訪れた。フライが着水したであろう辺りで(僕にはフライすら見えていなかった)何かが跳ねたような気がしたので、思わず合わせたら、何かがロケットのように手元に飛んできた。それは小さなオイカワだった。嬉しいというよりビックリして、毛針を外そうと魚をみたら、オイカワはちゃんと口でパンクヘッドを咥えていた。「フライって本当に釣れるんだ!」友達と二人でものすごく興奮したのを覚えている。その時の感動を胸に、そのままフライフィッシングにのめり込んでいく人生だったら、美しい話だったのかもしれないけど、何故かその後はフライはやらなかった。
理由は、オイカワをフライで釣った僕が羨ましかったらしく、案の定「俺もフライをやる!」って言い出していた友達が、ルアーで初めてライギョを釣ったという話を聞いたからだ。50センチはあったそうだ。今度は僕が羨ましかった。興奮して教室で話す友達をなんとか説得して、彼のとっておきのシークレットポイントに連れて行って貰った。友達はまたそこで一匹ライギョを釣ったけど、僕はアタリすらなく、一匹も釣れなかった。ルアーに浮気した代償は大きかった。友達が二匹も釣ったのに、見事にボウズだった僕は、何故か釣りに対する気持ちが冷めてしまった。その後、フライロッドも手にすることなく、高校生になると同時にそのまま自然に釣りの世界から遠ざかった。
次回はそんな僕が大人になって、再びフライフィッシングを始めるきっかけになった「岩手で釣りキチ三平に会う」編をお届けいたします。お楽しみに!