前回からの続きです。
ニュージーランドの現地日本人ガイドさんがドタキャンになって、代わりに現れたのが、何と!想像していたガイドとは全くイメージが違うおっちゃんガイドさんだった。
ガイドのおっちゃんは、なんの愛想もなく無口だった。なんとか場を盛り上げようと、カタコトの英語で喋りかけてはみたが、会話はまったく弾まなかった。明るかった空がどんどん暗くなっていく感じがした。二人きりの車の中は、重たい空気がしばらく続いた。しばらくして、おっちゃんは「たくさん釣りたいのか?」と聞いてきた。僕は「数は釣らなくていいから、楽しみたい!」と答えた。「だったら大きいのが釣りたいんだな?」と聞かれた。僕は「大きいのは釣らなくていいから、楽しみたい!」と答えた。しばらく何か考えていたおっちゃんは、深いため息をついた。長い沈黙が続いた。おっちゃんは、僕をどこに連れて行けばいいのか迷っているようだった。
僕が言った意味が通じたのかどうかはわからなかったけど、しばらくして、おっちゃんはこう言った。「とっておきの場所があるから、そこに行こう!」その場所は、もしかしたら釣れないかもしれないと言われた。でも、もし釣れたらデカイし、鱒が走るから気をつけろ!と言われた。
現場についた。川幅は7、8メートルの流れの速い場所だった。「沈めて釣るからフライを見せてくれ!」と言われたので、ニュージーランド用に巻いたフライボックスを見せた。見た瞬間、全部ダメだと言われた。「ええっ!このフェザントテイルとか必死に巻いたのに!」おっちゃんはそんなことなど気にも留めず、フライボックスをさっさと閉じて、「他にはないのか?」と聞いてきた。念のために持ってきた管理釣り場用に巻いてあったフライボックスを見せた。
フライをジッと見ていたおっちゃんが、「これがいい!」と選んだのが、恐ろしく小さいミッジニンフだった。それも、赤いスレッドを巻いただけのやつだった。「このフライでしか釣れない!」おっちゃんは断言した。そのあと手渡されたのは、ありえない大きさのインジケーター。「ええっ!これが目印なんですか?」おっちゃんは笑いながら頷いた。
びっくりするような大きなインジケーターの先にびっくりするようなちっちゃなフライをつけて、おっちゃんの指示通り、緩やかなかけ上がりの上流に向かってフライをキャストした。
一発目だった。
ガツンときた瞬間、ラインが一気に走った。
「でっ、でかい!」
ラインがどんどん出ていく。
もう何がなんだかわからなかった。おっちゃんも興奮してる。
鱒がジャンプした。子供の頃、どこかで見た記憶があった。
そうだ!大橋巨泉さんと服部名人の「11フィッシング」で見たあの光景だった。
身体中からアドレナリンが出るのがわかった。
SAGEの4番がひん曲がった。初めてフライロッドの粘りがわかった。
日本の小さな渓流で20センチ前後の魚を釣るのとは、訳が違う。
「これがニュージーランドなんだ!」
ドタバタしながら必死でキャッチしたのは、まるまる太った45cmのネイティブレインボーだった。
僕以上に、おっちゃんが喜んでいた。
この場所にはいい型のレインボーがついているらしいが、滅多に釣れないそうだ。
「お前はラッキーだ!」と言われたので、「ここで釣らせてくれてありがとう!」とお礼を言った。
「絶対に釣りたい!」「絶対に釣らせないといけない!」そんなことを放棄して、二人で純粋に釣りを楽しんだ結果、舞い込んだラッキーだったのかもしれない。
それから二人は仲良くなった。色んな場所で鱒を釣った。
相変わらずおっちゃんは「もっと釣らなくていいのか?大きくなくていいのか?」って聞いてきたが、
笑いながらその度に「あなたと楽しみたい!」と言い返した。おっちゃんは嬉しそうに、「今度の場所は、釣れるかどうかわからないぞ!」と前置きしながら、毎回、とっておきの釣り場に案内してくれた。
釣り場を移動しながら車の中で色んな話をした。おっちゃんは僕が英語がわからないことなんか、お構いなしに喋り続けた。僕は僕で、おっちゃんが何を言ってるのか、さっぱりわからなかったけど、笑いながら聞き続けた。
おっちゃんが言うには、日本人はとても細かく、わがままだそうだ。
お金を払ってるんだからその分、釣らせろ!、もっと釣れるところに案内しろ!、もっと大きいのが釣りたい!とか、言いたい放題らしい。だから疲れるんだと話してくれた。
何匹かの鱒と遊んで、楽しかったガイドフィッシングの1日が終わった。
別れる時、おっちゃんは僕に向かって、ニコニコしながらこう言った。
「See you again My friend.」
すべては自分次第だと思う。